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遼くんが鞄に荷物を入れて帰り支度をしている間、あたしはふと思い立ってギターをケースから取り出した。あたしが今から何かをしようとしているのを察したらしい遼くんがあたしに意識を向ける。
「お、何か聞かせてくれんの?」
「へへ、まぁ見てなって」
深く息を吸って心臓を落ち着ける。今まで何回かこういう事はしてきたけど、やっぱり好きな人の前でやるとなると妙な緊張感がある。いや、誰だろうと何人いようとそれは変わらないか。自分をひけらかすのは変わらないもんね。
不思議なことに、そう思うとさっきまでの緊張感はどこかへ行った。そりゃそうだ、あたしはこれまでに何度も、本当に気を許した人にしか見せない無防備な姿を目の前の彼に見せてきたんだから。
左手で弦を押さえてギターを鳴らす。遼くんの暖かい眼差しを間近に感じる。十秒くらいの短いギターソロでできたイントロの後、ゆったりと語りかけるように言葉を紡ぐ。あたしが好きな曲の一つ、ヨルシカの「靴の花火」。残暑が抜けきらない九月にはぴったりだ。
ワンコーラスを歌い終えてしばらくの間余韻に二人とも浸っていた。あたしがギターを机に立てかけたその時、急に後ろから拍手なんて聞こえてきたものだから「うひゃあっ!」なんて声を上げて遼くんに飛びついてしまった。
そこにいたのはクラスメイトの今井くんと須藤さんだった。いったいいつから、というかまだ帰ってなかったんだ。集中していて全く気づかなかった。
「なぁんだ、びっくりしたぁ……二人ともいるなら何か言ってよ〜!」
「言おうとしたんだけど、遼太郎と灰原さんの雰囲気いい感じだったし、そうかと思ったらギター鳴り出すし、澄んだ歌声聞こえるし、なかなかタイミング見つからなかったんだよ」
「今井、一回教室入るの躊躇ってたもんね」
「そりゃ、今入ったら邪魔にならないかな、とか思うだろ」
「まあ、それは思うね。ってか、灰原さん大丈夫?」
「う、うん。なんとか……」
遼くんから離れて体勢を立て直す。
「よし、帰るか」
遼くんが席を立って鞄を肩にかける。あたしもギターをケースにしまって背中に背負う。二人一緒に昇降口で靴を履き替えて外に出ると、燦々とした日差しが鋭く照射してきて目が眩みそうになった。もうすぐ九月も中旬に入るんだからいい加減マシになってくれれば良いのに、どうしてこんなにしつこく暑いんだろう。
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