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校門を出ると、あたしと遼くんは東の方向へ歩く。どっちの家もそっちの方向にあるのもそうだけど、どうせならギリギリまで一緒に居たいという意地の悪さみたいなものが一番だ。
遼くんはいつも車道側を歩く。そしてあたしの左手を取って、あたしの家に着くまでずっと繋いでくれる。あたしより頭一つ分くらい大きな背丈に比例するような、二回りくらい大きな手。そしてその分温かい。
「胡桃の指、ガサガサだな。まだ保湿してないの?」
「あぁそれがさ……」
ギターを触り続けていると、そのうち手荒れが酷くなってくる。あたしだって年相応の女の子なわけで、手荒れに限らず見てくれについてはある程度気にする。だからギターに触った後は必ず保湿クリームを塗るんだけど、それを家に忘れてしまった。いつもなら鞄かスカートのポケットに入れてから学校に行くのに、今日に限って寝坊してしまったものだからそんな余裕なんて無かったのだ。
「そういや、今日やけにあくびの回数多かったな。それか」
「そうなの。なんか寝付けなくてさ、最後に時計見たの、二時くらいだった気がする」
「だったら今日は早めに寝なよ」
「分かってます〜」
「それと、これ」
「うん?」
遼くんが徐に鞄から何かを引っ張り出した。
「え、これ……」
「俺が使ってるやつで良かったら。合うかどうかは分かんないけど、塗らないよりマシだろ」
「……うん、そうだね」
に遼くんが重宝していると言っていた青いボトルの保湿クリーム。家に帰ってからでも良かったけど、あたしの場合玄関のドアを開けた途端に忘れていそうだから今のうちに塗っておくことにした。遼くんの言う通り、合うかどうかは別として、塗っておいて損はない。
右手の甲に一センチ分くらい出して両手に馴染ませる。基本的にピックでギターを弾くとはいえ、少なからず弦と指先が擦れることがあるから右手の保湿も忘れない。
初めて使ってみた感想としては、あたしが普段使っているのとそんなに変わらないってことだ。すっと馴染んで変にベタつかない。シトラスの匂いも強すぎず弱すぎずちょうど良くて、これなら男女問わず気軽に使えるんじゃないだろうか。
「ありがとう。これ良いね、あたし好きなやつだ」
ボトルを返しながら言うと、遼くんは「だろ? 絶対胡桃好きだろうなぁって買う時に思った」なんて笑った。
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