1.灰原胡桃

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「何それ、あたしが使うわけじゃないのにあたしのこと考えてんの?」 「そりゃ考えるよ。嫌われたくないし」 「なんじゃそりゃ。そんな心配しなくてもちゃんと好きだから大丈夫ですよ」 「…………そんなストレートに言われると、照れる」  思わずお腹を抱えて笑った。自分からそう言わせるようにけしかけたようなものなのに、いざ素直に言われたら照れるなんて可愛いかよ! 「笑い過ぎじゃね?」 「だってさぁ、そんな思いっきり言うなんて思わないじゃん。あぁ~お腹痛い」  しばらくその場でツボを抑えようとしていたら、遼くんは「置いてこうかな……」なんてことをボソッと言って先に歩き出そうとした。 「ごめんってばぁ。置いてかないでよ」  遼くんの隣に並び直して同じような歩幅で歩く。それからまだしばらくの間は思い出して笑いそうになったけど、さすがにこれ以上は本気で彼が拗ねかねないから無理やり抑えた。笑いのツボVS自制心の結果、自制心の勝利。 「そういえば胡桃の歌、また上手くなってたな」  あたしの家まであと五分くらいといったところにある交差点まで歩いた頃、遼くんが思い出したように言った。 「それ先輩にも言われた。自分じゃそんなつもりないんだけどなあ」 「よくあるよな、案外他人の方が自分の変化に目ざといってこと」 「あるある」  帰り道でする話はだいたいこんな感じ。付き合い始めた当初はずっと話が途切れなくて、家に着くのが惜しいと思うこともあった。だけど今はこうして隣に並んで帰路を歩いているだけで充分満たされる。それだけ遼くんとの時間が幸せな証拠だ。
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