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土地神様のところに戻ると彼は、青白い顔をして横になっていた。
「誰かを、呼びますね!!」
思わず叫んでしまう僕を土地神様はとめた。
「大丈夫だよ。俺が神様じゃなくなってもちゃんと世界が代わりを据えてくれるから」
青白い顔のまま土地神様は僕にそういう。
「だけど、もう俺は美しくないな」
自分の腕を確認するようにして土地神様が言う。
話し方もぶっきらぼうでまるで人間のような声でそう言われる。
何かがおかしいことに気がつく。
だけど、こんな時でも美しさを気にするこの人が不思議に思う。
「美しければ、君は帰らないでいてくれたのかなあ」
金色の文様がなくなった手が、駆け寄った僕頭を撫でるように触れる。
なぜ僕にそんなことを言うのかがわからない。
喉の奥の方が締め付けられるような錯覚がする。
叫び出したいような、泣きたいような、不思議な気持ちになる。
気を紛らわさないと、変な言葉が口から漏れてしまうかもしれない。
帰りたくないなんて、言えやしないのにそんなことを言ってしまいたくなる。
その代わりに土地神様に言う。
「あなたは充分美しいですよ。
その青い瞳はそれだけで神々しいです」
土地神様はこちらを見る。
「それは、うれしいな。
ツバメにも美しいと思ってもらえてたとは思っていなかった」
土地神様は僕の髪の毛をなで続けながら言う。
「でも、駄目なんだ」
この瞳ももうなくなる。
彼はそう言って目を細めて笑った。
「この瞳がなくなれば、残念だけど俺はもう土地神じゃなくなるだろう」
その青い瞳と目が合う。
何を言っているのだろう。
僕のことを試しているようには思えなかった。
それに、もう瞳を失うことは確定事項の様に彼は言うのだ。
「そうしたら、僕の地元に一緒にいきませんか。
温暖でいいところですよ」
みんな気のいい人で、穏やかで楽しい。
わがままばかり言っていた人だったけれど、この一年とても楽しかったのだ。
彼が神様でなくなってしまうのは多分、自分の一部を差し出しすぎた所為だ。
それが優しさなのだと僕は思う。
だから、この優しい神様の願いは叶えたいと思った。
柄にも無いと思いながら「それはどこに持っていけばいいんですか?」と聞いた。
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