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やわらかな木漏れ日が窓から差し込むぽかぽか陽気。
しんとした静寂な空気は図書室特有のもので、みんな思い思いに自分の世界へ没頭している。試験前は席も見つからないほど生徒がぎっしり座っているが、今はちらほら見られるだけ。
(……あと、もう少し)
精いっぱい背伸びをして手を伸ばすけれど、指が本に届く気配がない。かろうじて届いたとしても、重量感のある本なので、美咲に取れるかどうか疑わしかった。
しかし、脚立が見当たらないので自力でどうにかするしかなく。必死になって手を伸ばしていると、つま先立ちの足がふらついてバランスを崩してしまった。
よろけた、と思った瞬間、背中にぽすんとやわらかい感触がした。
「あ……っ すみませ、」
あわてて振り向くと、薫が美咲の背後から本棚に手を伸ばしているところだった。びっくりすると同時に、あまりの近さに胸がドキッとする。
薫は美咲が今の今まで苦労しても届かなかった本を、難なく取ってしまった。
「これ?」
「……うん」
差し出された本を受け取り、美咲は胸に抱え込んだ。またしてもお礼を言うべきなのに言葉が出てこなくて、自然と伏し目になる。
薫は小さく咳払いをした。
「……お前、スカートで背伸びなんかするなよ。ちびなんだから、無理せず脚立使ったら?」
「なっ、」
カチンときて言い返そうと顔を上げると、
「深山くん。ちょっといい?」
薫と同じクラスの女子がにこやかに立っていた。
「分からない問題があるんだけど、教えてくれないかな。もー、数学、二年になったらいきなり難しくなるんだもん」
はにかみながら、ちらりと美咲を見やる。言外に邪魔だと言われていることに気づき、美咲は、あーはいはいと思った。
愛想笑いを浮かべ、美咲はその場を離れた。貸出手続きを済ませ、図書室を出る。
(どこがいいんだか!)
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