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プロローグ 心中募集
『一緒に自殺してくれる人を募集します。生きていても楽しくありません。十七年間経験した下らない人生を早く終わらせたい。夢も希望もないから。
同じ心境の方、返事を待っています』
その投稿を最初に目にした時、永倉雅秀は、天からの啓示だと思った。
日課と化している自殺系サイトや、心中募集のSNSメッセージを巡る夜。運よく、流れてきたそのメッセージを雅秀は発見した。
投稿者のプロフィール欄を確認すると、都内の学校へ通う十七歳の女子高生だった。
それがわかった瞬間、雅秀の手が震えた。以前から望んでいた理想の相手が見つかったのだ。
雅秀は、さっそくその女子高生に、メッセージを送った。
返信はすぐにあった。てっきり、無視をされると思っていたが、驚くほどレスポンスは早かった。
この時点で、向こうは乗り気なのだと雅秀は確信する。
女子高生は、自分の名前をアズサと名乗った。
『こっちは三十四歳のおっさんだけど、大丈夫?』
『はい。一緒に死んでくれる人なら相手は誰でもいいんです』
『本当に自殺したいの?』
『自殺したいです。今すぐ死にたい』
最初のやり取りから、アズサは自殺願望の強さを露出させていた。彼女は、何が何でも死にたいらしい。
雅秀は、歓喜を覚えながらも、慎重に事を進めた。
自殺のためにこちらと会えるのか、本当の本当に、後悔しないのか。何度も何度も確認を行い、相手の意思を忖度した。
やがて、彼女の自殺念慮が本物であることを確信した雅秀は、自分の意志も打ち明け、互いに心中する決意を固めた。一緒にあの世へ旅立つパートナーが定まったのだ。
この時を境に、アズサとの交流(とはいっても、文字だけ)が始まった。
連絡はしばらく続いた。お互いが意見を出し合い、『自殺計画』を進めていく。
それは雅秀にとって、ひと時の清涼感をもたらした。
思えば、こうして女性とSNSのやり取りをするのは、これまでの人生で初めての経験かもしれない。
やがて、話はまとまった。
決行は十一月の初旬。方法は、睡眠薬と練炭の組み合わせ。雅秀がレンタカーを借り、人気のない場所へ移動した後、車内の窓をガムテープで目張りし、練炭を燃やす。
しばらく時間が経つと、車内の空気は一酸化炭素に変わり、やがて車内の人間は中毒死する。
本来は、想像を絶する苦しみに悶えるのだが、事前に強力な睡眠薬を飲んでいるため、苦しむことなく、眠ったまま逝けるのだ。
それが、この自殺の大きな利点だった。
集団自殺において、もっともメジャーな方法だといえるだろう。
自殺の方法と日時が決まった後、雅秀は、決行日まで、女子高生と共に自殺を行う光景をずっと夢想し続けた。その度に、心が躍った。
気分がここまで高揚するのは、ここ数年、ほとんどないことだった。
ようやく願いが叶うのだ。女子高生と共に自殺をする夢が。
雅秀は、その日がやってくるのを今か今かと、首を長くして待っていた。
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