恋愛のススメ

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   約束の時間の5分前、私は春馬が誰もいない美容室で、丸椅子に跨ってる姿を確認してからガラス扉を開けた。 「ここ座って」  春馬は、目の前の白いスタイリングチェアを指差した。  私は返事もせずに言われたとおり椅子に座って、大きな鏡に映し出された自分をみた。  春馬に泣きすぎて真っ赤な瞳を見られたくなくて、すぐに俯いた。     春馬が、私の髪の毛を一つに持ち上げて、グレーのカットクロスを掛ける。 「毛先だけ切るから」 「ショートにして」  春馬の手がぴたりと止まって、鏡越しの春馬の大きな瞳が更に大きく見開かれた。  「はぁ?なんだよ、急に」 「もう嫌なの。自分を変えたいの」    私は長い髪の毛が好きだった。  絵本にでてくるお姫様は長い髪が多いから。王子様が、お姫様を迎えに来てくれる絵本が大好きで憧れだった。  きちんと手入れもできないけれど、あっちこっちに毛先がいって纏まらないけど、ずっと伸ばして、胸より上に切ろうと思ったことは、一度もない。  春馬に切ってもらうのもいつも伸びた毛先の数センチだけだった。
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