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「俺じゃダメ?」
思わず身体が氷みたいにカチンと固まった。そんなドラマでしか聞いたことない台詞を、今、春馬が言ったの?
「……だ、めだよ!だって春馬は恋愛のススメの定義に当てはまらないもん」
纏まらない髪の毛と一緒でひねくれてる私を、春馬は後ろから包むように抱きしめた。
「わっ、春馬」
鏡越しの春馬の顔が、いつになく真面目で、私は顔が熱くなる。
「ど、うしたの?……春馬?」
何故だかわからないけど、心臓が飛び跳ねた。
「……何て言ったら、真理亜がドキドキする理由が俺になんの?」
思わず春馬の腕を振り払う。振り返って、鏡越しじゃない春馬を直接見ようとしたら、春馬の掌が私の顎に伸びて強引に前を向かせた。
鏡に映った私は、驚く程に真っ赤な顔をしていた。
春馬が意地悪く口角をあげた。
「真理亜、顔、真っ赤。良かった、ちゃんと俺にもドキドキしてくれんじゃん」
「えっ、違う!これは……春馬が……」
そこまで言った私の言葉を春馬が遮った。
鏡越しに私達が映っている。春馬は茶髪の後頭部しか見えなくて、私の唇と、春馬の唇が重なっていることに、少し遅れて感触で気づく。
ゆっくり唇が離されて、私は言葉ごと春馬に持っていかれたかのように、一言も発することができなかった。
私は視線を揺らしながら、ただ春馬を見つめていた。
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