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「春馬ー」
私は前を向いたまま名前を呼ぶと、当たり前みたいに、座ってた椅子を後ろの机ギリギリまで寄せた。
「真理亜、今日も手櫛だけ?」
「うん、めんどくさくて」
「恋愛する気あんのかよ、いつも愚痴ってるくせに」
窓際の一番後ろの席から、春馬の大きな両手が、私の髪の毛目掛けて伸びてくる。
「あー、先生カッコいいな。後ろ姿見てるだけでドキドキする……」
繰り返しになるが、私の提言する『恋愛のススメ』とは、ドキドキするモノであって、ドキドキする理由がないのなら、それは恋愛ではない。
後ろの春馬もコレに準ずる。
「それ何回も聞いたけど。なぁ、大体さー、恋愛するのにいちいち、ドキドキしなきゃいけないワケ?」
少しだけ春馬が、私の方を確認するように、右耳の方へと顔を寄せた。その両手は私の髪をうなじから、掻き上げるようにして、左右に動かしながら、今日の髪型のイメージを思案してるようだ。
「そりゃそうでしょ」
春馬に触れられても、耳元に話す息がかかっても、私は全然ドキドキしない。
「あー……。ほんと、くせっ毛だよな、真理亜の髪は」
一度髪を指先から離して、春馬が私の髪の毛をじっと眺めた。
「よし、決めた」
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