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私の胸まである黒髪を、再度両手でふわりと掴み上げてから、春馬が私の頭皮に長い指を差し入れる。
一掴み取ると、上から少しずつ私の髪を編み込んでいく。
「たまには自分でセットしてこいよ。後ろからみてて、気になるっつーの」
「上手にできないんだもん。……でも切りたくないし」
私の髪の毛は毛先だけくるんと勝手に巻いて、ふわふわと纏まらない。
小さな頃から悩みのタネだ。そんなやっかいな髪をいつも魔法みたいに変えてくれるのが幼なじみの春馬だった。
「素直な真っ直ぐストレートが良かったのにな」
「そう?俺は捻くれてるけど、癖のある真理亜の髪好きだけどな」
春馬は最後に左右のバランスを見ながら、髪をゆるく引っ張りながら全体を整えていく。
「俺、真理亜の髪に恋してんの」
「え?」
コイツは今何て言ったんだ?恋?髪の毛に?
「どゆこと?」
目を細めた私の顔は春馬には見えない。
私からも後ろの春馬の顔は見えないけれど、多分口角を上げている。そんな気がした。
髪の毛に恋してもドキドキなんてしないでしょうが。ま、春馬の場合はあながちそうじゃないかもしれないけれど。
「ちゃんと愛情かけて丁寧に手入れして、整えてやれば、素直に纏まるし、綺麗に変わる。ちょっと位、クセあって手強い方が俺は好きだね」
「美容師馬鹿だね」
「最高の褒め言葉だな」
今度こそ春馬が、私の顔を覗き込んで、ニッと笑った。
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