恋愛のススメ

　春馬の実家は美容室を営んでいる。

　小さい頃から私は春馬のお父さんに髪を切ってもらっていた。高校生になってからは、美容師見習いの春馬に月に一度カットしてもらっている。

　手先が器用で美容師としてのセンスもある、春馬の将来は、私と違って遥か昔から決まっているのだ。

　何の取り柄も、なりたいモノもない私とは違う。いつも隣にいたのに置いてきぼりにされた気持ちになって、少しだけ寂しくなった。春馬の指先を独り占めできるのも、今年で最後なんだ。

「何？」

「え？」

「考え事してただろ？真理亜な、考え事してると首傾げるクセあるからな」

　春馬の話す吐息で、私の髪の毛が揺れた。

　いつものように春馬がスマホで写メを撮って、私のラインがメッセージの受信を告げる。

　私は、自分の髪が変わったことを確認するこの瞬間が胸が高鳴って一番好きだ。

「……わぁ、かわいい！やっぱ春馬凄い！」　

「はいはい、どーも」

春馬がニヤリと笑って、私の髪を眺めながら、頬杖をついた。

ーーーー春馬の指先は魔法みたいだ。

　5分ほど前の私のあっちこっちにふわふわして、よそ見ばかりの髪の毛は、お伽話のラプンツェルみたいに、緩やかに、ウェーブを描きながら王子様を密かに待つお姫様と同じ、綺麗な編み込みに変身してたから。

「で、今度の花火どーすんの？」

「春馬といってあげる」　

「はいはい」

春馬が気怠そうに、首に両手を回しながら返事した。