夕子と写真

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 夕方になると、2人は散歩に出かけた。ライトは首から宝物のカメラを提げている。高台に行くと、綺麗な夕日が見えた。 「綺麗なものを100年ぶりくらいに見た気がするよ」 「え?小町って20年くらい前までこの世にいたんじゃないの?」 「死んでからはそんな余裕はなかったな。それにしても、綺麗な場所を知っているんだな」 「ここね、お父さんがお母さんにプロポーズした場所なんだ。夕日を見ながら。それが、あたしのホントの名前、夕子の由来。トワイライトもそこから取ってるんだよ。お父さんもお母さんも幼稚園の時に事故で死んじゃったけど」 「そうなのか。よく覚えているんだな」 「生きてる時のお父さんとお母さんのことはほとんど覚えてないの。でもね、あたしもイタコの血をひいてるから口寄せができるんだ。お父さんとお母さんの魂をよくここで呼び出してた。  私ね、降霊術の才能があるんだって。普通の口寄せって、自分の体に魂を憑依させるものなんだけど、私の場合、何もない空間に魂を浮遊させる形で呼び出せるんだ。お話は数珠がないと出来ないんだけど、会いたかっただけだからおばあちゃんに内緒でこっそり呼んでたの。しゃべれなくても、会えるだけでよかったんだ。  でもね、どうしてもお話したくなっちゃったから、数珠を持ちだしたらおばあちゃんに見つかっちゃったの。そしたら、無闇矢鱈にそういうことをするなっておばあちゃんに怒られた。自分のために魂を呼び出すなんて勝手なことをするなって。お客さんの依頼以外でそういうことをしちゃ駄目だって言われた。  おばあちゃんはそれで、もう呼び出されても来ないでくれってお父さんとお母さんに言って、それから会えなくなっちゃったの。お父さんとお母さんに会えないならイタコになんてなる意味がないから、修行なんて絶対にしないし後なんて継がない」  ライトが抱えているものが想像より遥かに重く、小町は唖然とした。 「これもだいぶ前のお話だから、もうお父さんお母さんの顔もあんまり覚えてなくて。私の中に残ってる繋がりって、2人がつけてくれた名前くらいなんだよね。だからさっ、小町もあたしのこと夕子かライトって呼んでよ。昔の小町よりは垢抜けないかもしれないけどさ」  急に明るい声でライトは言う。二人の間に風が吹き抜けた。 「私よりいい女になったらな」  小町の目は、もうライトを見下してはいなかった。出逢った頃より優しい目をしていた。  猫又の毛並みが夕日にとても映えていた。小町の表情をどうしても残したかった。  小町が写真に写らないと知りながら、ライトはシャッターを切った。ライトが切り取った空間にはどこまでも美しい夕日しか映らなかったが、誰かがそこにいるような温かみと、聖者と死者の隔たりという悲哀があるようなそんな一枚になった。
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