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「いいんだよ。ばあちゃんはね、夕子がイタコのお仕事に興味を持ってくれたことが嬉しいよ。なんたって夕子は口寄せの才能があるんだから」
口寄せというものは、簡単にできるものではない。祖母はやめさせたが、ライトは確かにイタコとしての才能に優れていた。
「おばあちゃんがやめさせたくせに」
「あれはねえ。いつまでも何度も呼び出していたら夕子の両親が安心できないし、呼び出している状態と言うのは、それこそ魂があるべき場所に無い状態だからねえ」
祖母の言っていることは至極正論ではあるが、ライトとしてはどうしても納得がいかなかった。
「本当に数珠まで使い出した時にはびっくりしたよ。しかも覚えているかい? ばあちゃんが叱った後も懲りずに2人を呼び出そうとして間違って悪い霊を呼び出してしまっただろう? その時に、ばあちゃんの見よう見まねでお札を使って霊の動きを封じたんだよ。まだ小さかったのに。夕子のお母さんやばあちゃんが子供の頃はそんなことはできなかったよ。修行してくれなくなってばあちゃんは悲しかったんだけれどね、だからこうして夕子が継ぐ気になってくれてうれしいよ」
ライトは当然イタコを継ぐ気はない。探りを入れただけのつもりが、話が飛躍していることに驚いた。
「継がないよ。あたしは東京で芸能人になる。だから東京の大学に進学する」
「そんなこといったってねえ、夕子は時々部屋で歌っているけど、歌の才能があるとも思えないし、演技の才能があるとも思えないし……。ばあちゃんから見れば可愛い孫だけれど、芸能界にいるのは本当にフランス人形さんみたいな可愛い子ばかりだから夕子がやっていけるとは思えないよ。それに夕子は口下手だから面白いおしゃべりの才能があるとも思えないし……」
才能。才能。またこの言葉だ。感受性の強いライトは、推しのアイドルである高遠結花のアンチスレで何度もこの言葉を見て自分のことのように傷ついている。
「高遠結花は才能がない」「才能の無い一発屋の子孫は一発すら打ち上げられない」「遠い先祖の七光り」「さすがにセンターはゴリ押しが過ぎる」酷い悪口を、ツイッターやインスタには毎日のように目にしている。
「なんでそんなひどいこと言うの!」
ライトは机をたたいて反論し、自分の部屋に走って戻って鍵をかけた。音で小町が起きる。
「どうした?楽しみにとっておいた茶菓子でもなくなっていたのか?」
「違うし……空気読んでよ。ねえ、小町。才能があることしかやっちゃいけないの……?」
ライトがつぶやく。
「才能があったって、幸せになれるとは限らないさ。そして、才能がなくとも人はしたたかにのし上がれる」
暗くてライトにはよく見えなかったが、小町は遠く冷たい目をしていた。まるで昔のことを思い出しているかのように。
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