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夕子と冒険
才能の一件以来、ライトは祖母と口をきかなくなった。小町は寝ているライトにいたずらをしたり、ジョークを飛ばしたりとお茶目な一面が目立つようになった。小町なりに、ライトを元気づけようとしているが、小町は素直に励ますような性格ではない。それはライトもよく分かっていたので、気遣いに感謝していた。
上っ面しか見ていない祖母の言うことよりも、小町を信じたいという気持ちが強くなっていた。いっそ家出したいと考えるようになっていた。
「はあ、期末テストが終わったら東京で結花ちゃんのサイン会かぁ。いいなぁ、東京って本当にイベントがたくさんあるんだなぁ」
おやつの饅頭をつまみながら、ライトがぼやく。インスタグラムでは高遠結花の自身初となる単独サイン会が秋葉原で開催されることが告知されていた。
「見習いイタコも行けばいいじゃないか」
「簡単に言わないでよー。おばあちゃんの機嫌が良くたっていけないのに、今喧嘩中だし無理だよ」
「こっそり抜け出してしまえばいいさ。いいじゃないか、たまには旅をするのも。健康な若者の特権だ」
「だって、東京って泊まる場所高いし。交通費ですらギリギリなのに。でも、野宿なんてしたら怖い人に誘拐されそうだし」
「悪党なんて私の妖力があればどうとでもなるぞ。殺さない程度に追い払って、見習いイタコの用心棒くらいしてやってもいい」
小町はいつになく強引に説得をする。ライトは小町の巧みな話術に乗せられ、東京へ行く方に心が傾く。
「ほんとに? いいの?」
「ああ、報酬はその饅頭でいいぞ。前払いだ」
「ありがと小町! 大好き!」
ライトは即座に残りの饅頭を小町に差し出した。小町はそれらを笑顔でぺろりと平らげる。
「美味いな。交渉成立だ」
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