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夕子と希望
「あたしが、結花ちゃんを色んな所に連れて行くから!」
結花はふふっと笑った。
「ライトちゃんって面白いね。どこに連れて行ってくれるの?」
ライトは冷静になった。よく考えてみたら、結花の方が明らかに東京に詳しいのだ。そして、ライトは東京の地理をほとんど知らない。
「あ、えっと、ごめんなさい! 何も考えてないんです! ただ、結花ちゃんに元気になってほしくて!」
「いいよ。サイン会も中止だし、明日もオフなの。私もあんまり友達と遊ぶってことなかったし、気分転換に付き合ってくれるって解釈でいいのかな?」
行き当たりばったりのライトの説得は結果オーライだったようだ。
とりあえず、まずは古着屋に服を買いに行くことにした。ついでに変装用の伊達メガネも仕入れた方がよさそうだ。
初めて来た東京の古着屋でライトは大はしゃぎだ。色々と物色する。
「あたしね、結花ちゃんは赤が似合うと思うの! なんでそう思うかっていうとね……」
声を抑えてはいるが、ライトはいかに印象に残った雑誌やテレビの撮影時の服装が可愛かったかを説明した。
結花もライトに似合いそうな服を身繕い、変装と称したオシャレを完了すると購入した服をそのまま着て街へ繰り出した。
二人でカフェに行って、ケーキを食べる。リンゴがバラの形になったケーキをライトは注文した。結花はモンブランを頼んだ。自慢の一眼レフカメラで写真を撮る。
「おいしい? ここ、私のお気に入りのカフェなの」
「うん! すごく美味しい。リンゴもこんなに美味しく可愛く料理してもらえたらリンゴ冥利に尽きるよね」
ライトの独特な表現に結花は笑う。
「ライトちゃんの食レポいいね。グルメリポーターになったら固定ファンがつきそう」
「やったー! 結花ちゃんのおすみつきだ!」
2人でショッピングを1日楽しんだ後は、ホテルに戻った。シャワーを浴びるために着替えを準備しようとしてライトが鞄を開けると、間違って教科書を持ってきていることに気づいた。
「ライトちゃんって真面目?」
「あー、試験期間に色々準備してたから紛れ込んじゃったみたい。そうそう、国語の範囲、ちょうど高遠静月の『黒い夕顔』だったんだよー」
「私の学校と同じだ」
「そうなの?なんか嬉しいな。あたしは、好きだよ。『黒い夕顔』って魂の叫びみたいなものを感じるの」
「そう? ひいひいおじいちゃんを褒めてくれてありがとう」
意気投合した2人は夜遅くまでおしゃべりをして、気が付いたら眠っていた。
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