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「で、また男の子と喧嘩をしたのかい。ばあちゃんは悲しいよ」
「向こうが先に悪口を言ったんだ。あたしがちょっと都会っ子だからって誹謗中傷はよくない。あたしは悪くない」
「死んだあんたのお母さんとお父さんに申し訳ないよ、まったく。ああ頼むから平和に過ごしておくれよ」
家に帰ると祖母の説教が待っていた。交通事故で両親を亡くしたライトは、秋田の横手でイタコをしている祖母に育てられている。先ほどの喧嘩は現行犯ということで、からかった男子生徒、手を出したライトの双方が説教を受け、保護者に連絡が行った。
「別に平和じゃなくたって平気だもん。こんなんでへこたれてちゃ東京の荒波ではやっていけないからね!」
「何度も言っているけど東京に行くなんて許さないよ。夕子はばあちゃんの後を継いでイタコになるんだよ」
「絶対にイヤ!あたしは芸能人になるの!」
内弁慶のライトは祖母とは口論の毎日だ。日常生活のことから進路のことまで顔を合わせば言い争っている。今日も互いに1歩も引かず、祖母が夕食の準備に取り掛かり、ライトが制服から私服に着替えようとしたのは1時間後のことだった。
「ああっ!おばあちゃん、またあたしの服隠したな!」
祖母はライトが古着屋で買ってきた前衛的な服装を好まなかった。しかし、ここで諦めるライトではない。祖母の仕事中に、家じゅうの扉という扉を開けて捜索した。開けるなと言われてきた扉だろうと、立ち入り禁止の部屋だろうと気にしない。
普段入らない部屋の押し入れの中にお札の貼ってある箱を発見する。ちょうど服が1着くらいなら入りそうな大きさだ。
「なーるほど、おばあちゃんはここに隠したんだなっ!あたしの目はごまかせないぞ!」
ライトが箱を勢いよく開けると、部屋中が煙に包まれた。咳が止まらなくなり、ライトは制服の裾を口に当てて回避しようとする。
「ふう……ようやく出られた。あのイタコめ、覚えておけ」
ようやくまともに息ができるようになり、若い女の声が聞こえたと思うと、煙が晴れて猫又が現れた。
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