夕子と静月

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結花を安全な場所へ避難させた後、静月はライトに語り掛ける。 「イタコさん、僕を小町にもう一度引き合わせてくれてありがとう。小町が苦しんでいるから、お札をはがしてやってくれるかい?」 「駄目です。小町はまだ誰も殺していないんです。小町はまだ引き返せるんです!」 ライトは泣き叫ぶ。友達を人殺しにさせるわけにはいかない。 「あたしね、小町と遊んでた時楽しかったんだよ。口は悪いし、ちょっかいかけてくるけど、あたしの好きなものもあたし自身もちゃんと肯定してくれて、味方になってくれて嬉しかったんだよ!それが全部あたしを利用するためだったとしても、それでもいい。小町はあたしの友達だ!あたしは小町が好き!だから、友達が復讐にとらわれてたら悲しいよ……」 たとえエゴだと言われようとも、ライトは小町を説得する。 「偽善者が……! 見習いイタコは利用されても構わないかもしれないが、私は私を利用した静月を許さない! 体が動く日は全部静月とともに過ごした。動かない日は静月が枕元で語る物語と静月の押し花が支えだった! でも、全部嘘だったんだろう! 私の小説を利用して文壇でのし上がるために! 利用するだけ利用して捨てたんだろう! 愛していたのは私から感じる金の匂いだけだったんだろう!」  小町の感情が暴走する。お札の効力はまだ1日あるはずだが、心もとなくなっている。 「見習いイタコ、私を静月と同類にするな。お前は信じないかもしれないが、本当にお前の力になろうと思ったのは封印を解いてくれた恩義と、私が持ちえなかった健康な体を持つお前に私の代わりに幸せになってほしいと思ったからだ。私の小説を好きだと言ってくれた感性を肯定した気持ちに嘘偽りはない。大丈夫だ。この金に目がくらんだ盗人の魂さえ始末すれば、元通りだ」 「違うよ、静月さん言ってたじゃない! お金が目的じゃなくて、静月さんは小町にもう一度会いたかっただけなんだよ。」 「いまさら何を言っても言い訳にしかならないが小説関係で得た金銭は、僕自身は一銭たりとも使っていないよ。名声などいらなかった。君に会いに行った最後の夜以来、妻子とすら会っていない」  結花は裕福な暮らしをしていた。静月は小説で得た富を一銭たりとも自分のためには使わず、すべて遺したまま逝った。 「イタコさん、僕からのお願いだ。すべて僕がまいた種だ。小町が僕を葬ったあとも、どうか小町をよろしく頼む。小町は何も悪くないんだ」 「待って静月さん!静月さんにだって心残りがあるんじゃないですか?だって小町はまだ『黒い夕顔』を読んでいないんです!」
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