夕子と静月

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 『黒い夕顔』の名を聞いた瞬間、静月は驚いた。 「どうして君がその作品を? 私はそれを書き上げてすぐ死んだ。出版社には送っていない」 「ご遺族の方がご発表されたんだと思います。静月さん、あなたは小町があなたを呪い殺しに来た時に読んでもらうためだけに書いたんじゃないですか? 静月さんが自分の作品を読んでほしかったのは小町ただ一人だったんじゃないですか?」  ライトは教科書の『黒い夕顔』の単元を取り出して、小町に見せながら音読する。愛した女性の霊に呪い殺される男の物語。ページをめくるたび、男の後悔と情愛があふれていた。最期、男はこれ以上ないというくらいの拷問を受けたうえで安らかな顔で死ぬ。静月から小町への熱烈なラブレターに他ならなかった。 「ねえ、小町……元の小町に戻ってよ。見て、小町。覚えてる?一緒にお父さんとお母さんの思い出の場所に行った時の写真。小町は、幸せになりたかっただけだったんだよね? あたしは、この時の小町が本当の小町だと思ってる。静月さんの話、ちゃんと聞いてあげないと、小町がまた後悔することになるよ」  最後のページをめくり終わった後、ライトはカメラの中にある、以前撮った夕日の写真を見せた。小町の表情が変わる。 「小町、来世などいらない。地獄に突き落として永遠に苦しませるでも、この場で消滅させるでも僕を好きにしてくれ。君のすべてを愛している」  静月は100年以上言えなかった言葉をようやく伝えた。小町はしばらく黙っていたが、ようやく震える声を絞り出した。 「本当にバカだ! 私は静月が穏やかに生きられるのならそれでいいと思っていたのに! 普通の丈夫な女と結婚して、老人になるまで生きて……私は同じ時を生きられなくても、あの世でまた会えるのならばそれでよかった! それに、わざわざ恨まれるようなことをしなくたって会いに行ったのに……!」  小町の頬を涙が伝った。 「静月を、愛していたから」
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