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その時、お堂の裏に隠れていた結花がそろりそろりとやってきた。
「盗み聞きするつもりはなかったんですが……」
「いや。構わない。こちらこそ脅かしてすまなかったな。怪我をさせてしまわなかっただろうか」
「いえ、無事です。こちらこそ、高祖父がご迷惑をおかけしました」
小町と結花は互いに頭を下げた。そして、小町が諭し始める。
「高遠結花、お前さんは死にたがっていたね。私はね、静月が私以外の人と結婚したことを恨んでいるわけではないんだよ。だからお前さんが自分の存在を否定する必要はない」
先ほどとは打って変わって晴れやかな顔をした小町に結花は戸惑う。しかし、彼女の説諭に真剣に耳を傾けた。
「生きていれば誰かをたたり殺したくなるくらい辛くなることもあるだろうさ。けれども、自分で自分を殺す道は選ぶな。お前さんは十分に魅力的だよ。何といったって、このイタコが熱烈に憧れているんだから。この見習いイタコは見た目こそ冴えないが、審美眼は特級品だ」
「ええ、私はライトちゃんに救われました」
「そうか。なら前を向いて生きろ。私と同じ夕子の名にも『髪結いと押し花』の名にも恥じぬようにな」
「はいっ!」
この日、静月は後悔から、結花は悩みから、小町は恨みから解放された。
「なあ、見習いイタコ、写真を撮ってくれないか?私は写真に写らないかもしれないが、私たちがまた道を誤りそうになった時、今日を思い出して正しい道に戻れるように」
神社の境内は夕日に染まっていた。ライトはカメラを準備する。
「小町さん、握手しませんか。仲直りのしるしに」
「喜んで」
当然のごとく、小町は写真に写らない。しかし、とても暖かい写真をライトは撮った。
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