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「あの、おばあちゃんキッチンにいます。もう出てきていいんですけど、猫又さん悪霊なんですか?」
押し入れを開け、小さな声で恐る恐る聞いてみる。
「人聞きの悪い。私は誰も殺していない。ちょっとした事故を全部私のせいにしてるだけさ。それより、お前さんの名は夕子というのかい」
「え、あ、まあ」
「はぁ。こんな垢抜けない見習いイタコと同じ名前か……。夕子と呼ぶのは癪だな。見習いイタコでいいな」
「なっ……ひどいです。夕子って呼ばないなら、ライトって呼んでください」
「ライト?お前さんのあだ名か?変な名前だな」
「あだ名っていうか……名乗ってる名前っていうか、ハンドルネームって言っても通じないですよね?」
「その言い方は知らないが、それくらいの年頃に本名以外の名を名乗ることくらいあるさ。ちょうどお前さんくらいの頃、私は小町と名乗っていたよ」
「小町……さん?」
「小町でいい。見習いイタコ、私を閉じ込めたイタコにはまともにしゃべれるのに、私に対しては随分と口数が少ないな。相当あのイタコに鬱憤がたまっているんじゃないか?どうだ、取引だ。お前さんは私を匿ってくれないか?その代わり私はお前さんが自由に生きられるように協力をする」
人見知り、この場合は猫見知りを発揮してしまったライトに対して猫又はまくし立てた。
「なに、別にあのイタコを呪い殺そうってわけじゃない。そもそも私の妖力じゃあのイタコには勝てないよ。
例えば、今日みたいに物を隠されればその場所を教えてやることはできるし、多少であれば物にも触れるから目と手足が増えたようなものだ。便利に使ってくれて構わないさ。私の姿はお前さんとイタコ以外には見えないから、イタコからさえ匿ってくれればいい。
私がお前さんを裏切ったらあのイタコに助けを求めればいい。悪い話じゃないだろう?
私はただ、健康な体を持ちながら自由に生きられないお前さんの力になりたいだけさ」
日頃、学校でも家でもストレスが溜まっているライトにとってそれは魅力的な提案だった。常識的に考えれば怪しいという次元どころの騒ぎではないが、ライトは少し考えた末に頷いた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
こうして、同じ「夕子」という本名を持つイタコの孫・ライトと猫又・小町の奇妙な共同生活が始まった。
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