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正面玄関の自動ドアをくぐると、真正面の視界に入る守さんの姿。
雨に打たれてずぶ濡れになりながらも、少し俯いてガードレールから腰を上げようとしない。
そんな守さんの姿を見て心がざわつく……
守さんがデータを盗んだ確証はないけど……それしか考えられない今、彼には憎しみしかない。
そう、彼に惹かれてた分だけ……
その筈なのに、目の前の彼のあんな姿を見て何故心が締め付けられるのか……
いい気味だと思いながらも、胸の奥が苦しくてたまらない。
守さんの話を聞けば、この心のモヤモヤは晴れるんだろうか……?
私は小さなため息をつくと、傘を広げて守さんへと一歩踏み出した。
「?」
「何で……帰らないんですか?」
「彩乃ちゃん……」
空からの雨粒が遮られた事を不思議に思った守さんが、おもむろに顔を上げた。
滴る雨粒で目を瞬かせながら私を見上げる守さんの両眼が、私を捉えるなり驚きに見開かれる。
だけど、その瞳は直ぐにまた少し哀しげなものに変わった。
「毎日、毎日……どうして……?」
「こうするしか、きみに会う方法がないから」
困ったように弱々しく笑う守さんに、少し胸が苦しくなる。
だけどそれを悟られないよう、努めて私は冷静に無表情で振る舞おうとした。
「……私自身、分からないんです」
「分からない?」
「守さんが憎いと思う気持ちで一杯なのに……あなたの話を聞きたいと思う気持ちもあるの……」
正直な自分の気持ちを吐露すると、守さんはゆっくりと立ち上がった。
私の目線もゆっくり上がり、傘を持つ手も長身の守さんに合わせてゆっくり持ち上げる。
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