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私が瞬きも忘れてしまうくらい目の前の男性に見とれていると、彼はクスリと大人びた笑みを浮かべて私の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、マスター。ボクにも彼女と同じのください」
「はい」
半ば意識が持ってかれ状態の私を余所に、彼はそう云ってチラリとマスターに視線を向けた。
だけどそれも一瞬で、次の瞬間には彼の双眸は再び私を捉える。
なんだろう……すごく優しい眼差しの筈なのに、強烈なインパクトがあって惹きつけられて目が逸らせない。
そして、自分のコースターに置かれたグラスを手に取った彼は……
「何か、すごく楽しそうに飲んでたから……ボクもその雰囲気に混ざりたくて。お邪魔だったかな?」
そう云って少しグラスを掲げると、肩をすくめてちょこんと小首を傾げた彼。
その仕草に、私は思わず言葉を発する事も忘れてブンブンと首を左右に振った。
後々考えるとなんて間抜けだったんだろう……
彼は空になってる私のグラスを見るや……
「マスター、彼女にお代わりを。ボクの奢りで、ね?」
「え!?」
ニッコリ微笑む彼に、私はようやく声を発した。
とても間抜けな声と言葉だったけど……
だけどマスターは、口許に意味深な笑みを浮かべながら私のコースターに新しいグラスを置いて離れていく。
展開の早さと自分の置かれている状況に混乱していると、彼は戸惑う私を安心させる為かゆっくりと口を開いた。
「君の楽しい時間にお邪魔させてもらう、ボクからのお礼。受け取って? カンパイ」
そう云って彼はコースターに置かれたままの私のグラスに、自分のグラスをカチン、と合わせて中身を口に含んだ。
私は慌ててグラスを持ち上げると、小さく会釈してグラスに唇をつける。
その時になって、やっと私は彼から目を逸らす事ができた。
正面を向いていると、痛いほどに突き刺さってくる左手側からの視線に、私は恐る恐るそっち側を振り返る。
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