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そして守さんの運転する車に揺られる事約1時間ほど……到着したのは都心から少し離れた小高い丘だった。
ここに来るまで車内の空気は重いままで、私は軽い緊張でどうしていいのか分からなかった。
「……はい、到着」
「え?」
守さんの優しい声と共に車は停止し、私は辺りに視線を巡らせる。
周りは真っ暗で、木がうっそうと生い茂っているだけだった。
唯一目の前は開けていて、そこから一望できるのは……
「うわぁ……」
私は余りの絶景に息を飲んだ。
目の前に……眼下に広がるのは、光、ヒカリ、ひかりの洪水。
キラキラと輝く街のネオンたち。
宝石を散りばめたような都会の夜景だった。
私は思わず身を乗り出そうとしたけど……
「ッ!?」
ガシッと身動きを封じられた。
忘れていた……シートベルトをしたままだったのだ。
恥ずかしさに真っ赤になる私に、守さんはクスクス笑いながら私のシートベルトを外して自身のシートベルトも外した。
「す、すみません……」
「ハハ。ボクもここを教えてもらった時は、思わず駆け出しそうになったよ」
「……何だか吸い込まれそうですね」
「ね。空の星と地上の星……その2つが一度に見れちゃうとっておきの場所なんだ」
ハンドルに凭れ掛かるようにして、守さんは少し遠い目をしてそう云った。
その表情はまるで誰かとの思い出に耽っているようにも見えて、私は少し胸が締め付けられるような感じがした。
『誰かと来た事があるんですか?』
そう聞きたくても聞けない言葉。
私にはそんな事を聞く権利がないような気がして……
うぅん、違う……怖いんだ。
守さんがこんな素敵な夜景を誰と見たのか……その答を聞くのが。
もし誰かと来てるとしたら……それはきっと女性だろうから……
「2・3日前に知り合いにここの場所を聞いてさ? 独りで下見に来たんだ」
「え?」
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