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「彩乃ちゃんと一緒に来たいと思って、ね」
守さんの言葉に、私は思わず彼の方を振り返った。
目が合った守さんはニッコリと微笑んでいた。
私は恥ずかしくなって守さんから眼を逸らすと、膝の上で握り締めた手に視線を落とす。
そして守さんの言葉の深意を考えた。
彼の言葉を素直に受け取るなら……守さんは私の為に、独りで……
結論付いてどこか安堵する自分がいた。
「気に入ってくれた?」
「はい! とっても!」
ゲンキンな私は、すっかり機嫌が直り素直に今の時間を楽しんでいた。
天上の星、地上の星……私はその自然と人工の星々に心奪われていた。
「……彩乃」
「え?」
突然、囁かれた守さんの言葉に私は耳を疑った。
(守さん、今私の事……呼び捨てに……?)
「先刻、彩乃ちゃんの会社の前に居た彼……彩乃ちゃんの事、呼び捨てにしてたよね?」
「あ、あぁ……雅人ですね。いや、彼は……」
「妬けるな」
「え?」
私の言葉を遮るようにして聞こえた、守さんの少し掠れた低い声。
驚いた私が守さんの方を振り向けば、意外に近かった彼との距離に思わず体が固まる。
運転席のシートにその身を沈めているものだと思っていたのに、守さんの体は私の方へと乗り出していたのだ。
「どんな関係であれ、彼氏でもないのに彩乃ちゃんを呼び捨てにするなんて……」
「守、さん……?」
私のシートの背凭れに手をついて、ゆっくりとその身を寄せて来る守さんに、私は更に体を強張らせる。
守さんの左手は私のシート背凭れに、そして右手は私の左頬をゆっくりと滑る。
その指先の感触に、私の体は異常なほどの反応を見せる。
そして守さんの親指が私の唇をなぞり上げた瞬間……
「ま、守さんもっ! よ、呼び捨てにしてもらっても大丈夫なので……」
私はこの雰囲気に耐えられなくなって、自分でもビックリするくらい声を裏返らせて言葉を発していた。
最初、キョトンとした表情だった守さんだったけど、フッと口許に柔らかい笑みを浮かべる。
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