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激しい情事の後、私はそのまま意識を失ってしまっていた。
そしてふと取り戻した意識の中、私はゆっくりと瞬きを繰り返す。
……が、猛烈な眠気に阻まれて、しっかりと目を開ける事が出来ない。
数度繰り返した瞬きの中、私のぼんやりとした視界に入ったのはソファーに座って膝の上で両手を組み、その上に頭を乗せ項垂れている守さんの姿。
守さん……どうしたんですか? ――――――
そう思うも声には出来ず、私は気を抜けば微睡んでしまいそうな中必死で自我を保っていた。
だけど重くなる瞼に耐えきれず、意識はあるものの両目は閉じられてしまう。
すると、ギシリ……とソファーが軋む音がして、守さんが動いたのだと知る。
そして同じようにギシ……とスプリングが軋む音がして体が少し傾く。
守さんがベッドの上に腰を下ろしたのだろうか……?
それから少しの間があり、守さんの長い指先が私の髪をサラリと払う。
そして頬に手が添えられたかと思うや、唇に守さんの吐息が触れる。
ゆっくりと触れるだけのキスは、今までにないくらい優しくて……そしてとても甘かった。
暫く重なり合っていた唇が離れた瞬間、私の中で寂しさが溢れ出す。
「……ごめんね」
(え……?)
優しく頭を撫でられ、そう呟かれた守さんの言葉。
私は驚き、その言葉の真意を確かめたいと思いながらも、云うことのきかない体に苛立ちが募ってゆく。
目も手も足も……全てが私のものなのに、私の云うことをきかない。
唯一、耳だけが私に守さんの情報を伝えてくれる……
どれくらい経っただろうか?
時間にして僅かだったんだろうけど、再びスプリングを軋ませて守さんは立ち上がる。
(行かないで……)
声にならない言葉……私は必死になって守さんを引き留めようとした。
だけど、そんな都合の良い事が起こる筈がなく……守さんは小さなため息を1つ残してこの部屋から出て行った。
最後に呟かれた「ごめん」の1言……とても切なそうな声だった。
その真意が分からないまま、私の意識はまた深く堕ちて行った。
頬を伝った1筋の涙と共に……
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