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「ウチは、香野くんや彩乃ちゃんたちの会社を1番信頼しているからね」
「ありがとうございます」
「……で、今日持ってきてくれた新薬って云うのは?」
「あ、コチラです」
克彦先生の言葉に、雅人がカバンから資料を取り出し先生に手渡す。
それを受け取った克彦先生は、メガネをかけるとじっくりと資料に目を通し始める。
そして何枚目かのプリントに目を通すや、資料をめくる手を止めてゆっくりとした仕草でメガネを取るとその眼を私たちに向けてくる。
私も雅人も、克彦先生の口からどんな言葉が飛び出て来るのか正直ドキドキしていた。
だけど、先生の口から出てきたのは予想もしていなかった言葉だった……
「……コレは、本当に君たちの研究なのかい?」
「え?」
私たちは同時に驚きの声を上げると共に、お互い顔を見合わせた。
克彦先生の言葉の真意を測りかねていた私を余所に、口を開いたのは雅人だった。
「先生、本当に……とはどう云う意味ですか?」
「そ、そうですよ! その新薬は私たちが長年研究してきたものですよ?」
冷静な雅人の言葉に私も我を取り戻して口を開く。
私たちの言葉に、克彦先生は困ったような表情で頭を掻いた。
「いや、すまない。言葉が良くなかったな」
「……君たちのって仰いましたよね? と云う事は、この資料をどこかでご覧になったと云う事ですか?」
「雅人くんは頭の回転が速く聡明だね。そうなんだ。実は……」
雅人の真剣な言葉に、克彦先生は私たちの研究かどうか疑った経緯を話してくれた。
それは……
「全く同じ……ですか?」
「あぁ。成分や精製方法はもちろん、実験データの数値に至るまで全て……だよ」
「そんな……」
私たちがここに来る前に、別の製薬会社が……先刻話にも出て来た、飛び込み営業の会社が持って来た新薬データとウチのデータが酷似していると云うのだ。
だけど……
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