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「成分や精製方法はまだしも、実験データの数値までも一緒となると……普通は有り得ないよね?」
私がそう云って雅人を振り返ると、雅人は眉間にシワを寄せて苦々しそうな表情をしながら1点凝視して考え事をしているようだった。
握り拳を作り、その手の甲を口に押し当てて雅人は何も答えてくれなかった。
業を煮やした私は思い切って口を開いた。
「克彦先生、その会社の名前……教えて頂けませんか?」
「彩乃!?」
瞬間、考え事をしていた筈の雅人が驚いて私の名を呼んだ。
雅人は目を見開いていたけど、私は構わず言葉を続けた。
「だって、偶然にしてはおかしすぎると思わないの!?」
「だからって、相手先の事聞き出してどうするつもりや!?」
「どうって……」
いつもに増して声に怒りがこもっている雅人……その眼は真剣で少し怖いくらいだった。
そんな彼の様子に、私は一瞬ひるんでしまう……けど、この空気を破ったのは克彦先生だった。
「ライズ製薬会社……と云う名前は知ってるかな?」
「ライズ……?」
「先生!?」
克彦先生はゆったりとした口調で、とある製薬会社の名前を口にした。
ライズ製薬会社……私は社名を呟き、その名前を頭の中で反芻する。
だけど、どう頑張っても私の頭の中でライズ製薬会社に結びつくものがなかった。
「……ライズは、最近日本に支社を出した海外の製薬会社や」
まるで私の心中を読んだかのような雅人の言葉。少し冷静さを取り戻したのか、口調には少し呆れの色が含まれているような気がした……
「そんな会社が、何でウチの新薬と同じ資料を……?」
「さぁな……」
私の質問にも、雅人は軽く吐き捨てるかのように短く云い放った。
「彩乃ちゃん……嫌な云い方かもしれないが、新薬認可と登録は早い者勝ちだ」
「え?」
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