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弱々しく微笑むと、私の手を握りソファーに腰掛けると私をその隣に座らせた。
湯冷めしてしまうと思った私は、何か着る物と思いソファーから腰を浮かせる。
だけど、守さんの手が咄嗟に私の手首を掴んだ。
「座って?」
「でも……守さんが風邪……」
「オレは大丈夫だから」
私の言葉を遮るかのように発せられた守さんの強めの言葉。
一人称も『ボク』から『オレ』に代わっている。
口調も瞳も真剣で、少し怖いくらいだった。
握られた手にギュッと力がこもると、私は観念してストンとソファーに座り直した。
そして、私の手を握ったまま守さんはゆっくりと口を開いた。
「彩乃ちゃんに初めて会った時……オレが何をしているのか聞かれた時、オレは“コンサルティング”って答えたの……覚えてる?」
「あ……はい」
私は守さんと初めて会った時の事を思い出していた。
あれは今回の新薬実験が順調だったのと、プロジェクトチームに配属されて1年のお祝いで馴染みのバーで飲んでいた所に守さんに声を掛けられたんだっけ……
「オレの仕事は……簡単に云えば『何でも屋』」
「何でも屋?」
「そう……依頼料さえ払ってもらえれば、“何でもやる”……何でも屋。今回は企業スパイ」
「企業スパイ……じゃあ、もしかして依頼主は……」
「そう、キミも見た……ライズ製薬会社」
瞬間、私の目からポロリと1粒の涙がこぼれ落ちた。
ずっと守さんの事を疑っていた。
でも、心のどこかで本当は違う……自分の思いすごしだ、と思いたかった自分がいたんだと思う。
だけど……私の予感は悪い方に的中してしまった……
きっとこの涙は、そのショックの表れ……
何も云えなくなった私に、守さんはギュッと唇を真一文字に引き締める。
そして、私の手を握る守さんの手にもギュッと力が込められる。
まるで、何があっても離さない、とでも云うかのように……
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