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「……オレの目的は、キミの会社から新薬のデータを盗み出してライズに渡す事だったんだ」
「何故……何故、私だったの……?」
「それは……女性の方が色々と都合がいいから……だよ……」
少し云いにくそうにそう云った守さんは、苦しそうに両目を伏せた。
“女性だと都合がいい”……その言葉に、私は後頭部を鈍器で殴られたようなショックを受ける。
と、同時に心臓が大きな手で鷲掴みにされるような感覚に陥った。
私は無意識に守さんから離れようとしたのか、守さんはハッと目を開くとグイッと私を自分の方へと引き寄せる。
そして再び口を開いた。
「オレたちが初めて出会ったあの日……実はその日以前から、オレはキミを知っていたんだ」
「その日以前から……?」
それはどういう意味? と続ける事が出来ず、私は守さんの次の言葉を待った。
と、同時に怖くもあった。
この先の守さんの言葉を聞いていたら、本当に絶望してしまうんじゃないかって……
だけど私は、この会話にストップを掛けられずにいた。
手にじんわりと汗が滲んでくるのが分かる。
「キミの会社からデータを盗み出す為のターゲットを探していた時……丁度キミを見つけた」
「……」
「だけどその時のオレは、キミの事は……情報を得るための人物、としか思ってなかった」
淡々と語りながらもどこか言葉を選ぶ守さんに、私はもう何も答える気がなくなっていた。
だけど、彼の言葉1言1言を聞き逃さないように気を張っている自分が居た。
「当初、キミのデータを集めた。どんな人物なのか? 性格、好きな物、行動パターン……紙面のデータはもちろん、陰ながらキミを見てた事だってあるんだよ」
「そんな……」
「だけどあの日……初めてバーであったあの日、本来ならその日は他愛ない会話をしてキミの、オレに対する警戒心を失くすだけで良かった。だけど……」
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