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守さんは言葉を切って小さくため息をついた。
複雑な表情を浮かべながら……
だけど守さんは、何か意を決したように口を開く。
「キミと話して、キミに触れて……オレの中で何かがおかしくなった。“この子ともっと一緒にいたい、この子にもっと触れたい”って……」
「守さん……」
「気がついたらキスをしてた。自分が抑えられなかったんだ……」
そう云った守さんは、繋いでいない方の手を私の頬に添えると親指で私の唇をなぞる。
まるで、大切な宝石を扱うかのように……
「初めてだった……仕事中に、自分が予定外の行動を起こすなんて。どんな些細な事が、計画の失敗に繋がるか分からないのに……」
守さんの言葉の真意が分からないような、分かりたくないような……
私は何て返していいのか分からなくて黙り込んでしまう。
困った表情をする私に、守さんはフッと柔らかい笑みを浮かべた。
「本当に予想外で計画外だったよ。キミを……彩乃ちゃんを好きになっちゃうなんて……」
「守、さん……」
「……オレはライズにキミの会社のデータは渡してないんだ。キミからはデータが盗れなかったって……キミが見たのはその謝罪をしている時だよ」
「え……?」
「全く……プロ失格だよ」
自嘲気味に呆れのため息をついてそう云った守さんに、私は驚いて彼を見つめ返す。
「守さん、今……何て……?」
「え? プロ失格……」
「じゃなくて! その前!!」
「その前……?」
(データは渡してない……?)
だったら何故ライズがウチの新薬データを持っていたのか?
「彩乃ちゃん?」
考え込む私に、守さんは不思議そうな表情で顔を覗きこんでくる。
私は守さんを見つめ返した。
「守さん、本当にデータは渡されてないんですよね?」
「あぁ、渡してないよ。……信用してもらえないかもだけど、もうキミにウソは吐かない」
「私以外の方から、とか……?」
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