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瞬間、誘いを断られプライドを傷つけられた女性は、キッと私に鋭い視線を投げかけて踵を返すと自分の席へと戻って行く。
もう、この店に来にくくなっちゃうじゃん……なんて心の中でため息をついていると、不意に守さんが私の手を握ったままこっちを振り返って来た。
「ごめんね?」
「……え?」
「雰囲気……悪くさせちゃったよね?」
「あ、いえ……」
心の中を読まれたのかと一瞬焦った私に、守さんは眉根を下げてそう云った。
その表情が叱られた子犬のようでカワイイ……じゃなくて!
私は握られたままの手をさり気なく解こうとしたんだけど……守さんの手の力がそれを許してくれない。
不思議に思った私が守さんを見つめると、彼は意味深な笑みを口許に浮かべていた。
「あ、あの……守、さん……?」
「ねぇ、彩乃ちゃん。場所……変えない?」
「え?」
唐突な守さんの言葉に、私は疑問を口にすることしかできなかった。
「雰囲気悪くなっちゃったし……別の場所でもっと彩乃ちゃんと話したいんだ」
「だめ?」と云うように小首を傾げて軽い上目遣いをしてくる守さんに、この状況で断る事が出来る女性がいたら会ってみたいと思うくらいだった。
「彩乃ちゃん?」
黙りこくっていた私に、守さんは不安そうな表情と声で私の顔を覗き込んでくる。
恥ずかしさのせいでどんどん赤くなる顔を、私は酔いのせいにして彼の言葉にコクリと1つ頷いた。
瞬間、守さんは本気で安心したのか、パァっと華が咲いたかのように笑った。
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