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僕は至って真剣だった。恋愛経験がないわけではないし、過去の相手も何か言ってきたわけではない。けれど、完璧なデートを一度も実現できていない気がするのだ。
そもそも、何を持って完璧なのかもわかっていない。水族館に行けばいいのか、動物園に行けばいいのか。すべての会計を僕が持てば喜ばれるのか。弁当を手作りすれば胃袋をつかめるのか。未だに結論は出ていないのだ。最近は多少お金もあるし、一端のデートをしなければ恰好がつかない。
「よく考えてみてくれよ、完璧な僕が拙いデートなんかしたら幻滅されるだろう。」
「デートに正解なんてないって。そのままのお前でいいよ。」
「よくない!」
ばし、と僕は日誌を叩いた。春日は呆れて僕を見ているが関係ない。どうにかしてデートのリハーサルをしたい。王子と呼ばれる僕の名声を傷つけたくない。
「お前……。好きな子もいないうちからデートの練習ってとち狂ってるよ。」
「頼むよ。暇だろ?」
「まあ、ちょっと待てよ。今さ、一瞬付き合ってやろうかなと思ったけど、俺お前の恋人役なんてできねえわ。絶対茶化すし、笑っちゃうもん。」
「あー、たしかにそうかもしれないな。僕も笑っちゃいそう。」
よくよく僕と春日がデートしている様子を思い浮かべてみたが、状況が滑稽すぎて5秒おきに吹き出してしまいそうな気がした。春日を友達以上に意識したことはない。これからもないとは断言できないが、少なくとも今のところは。春日は友達として優秀すぎるのだ。
「だろ?あのさ、適任がいるよ適任が。」
春日は僕の提案にじわじわとおもしろみを感じてきたのか、日誌を書く手は完全に止まっていた。
「7組の浪内って奴知ってるか?」
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