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「だれ、だれ?」
わたしはケイの隣に並ぶと言った。
そんなに興味なかったつもりだったのに、がぜん、知りたくなってきた。
「誰、わたしの知ってる子?」
むっつりと黙り込むケイの顔をのぞきこんでわたしは言う。
「わたしの友達がさ、ケイのことかっこいいって。あんたモテてんのかも」
道の片側には、水のいっぱい張られた五月の田んぼ。
ちょぼちょぼした水稲が、頼りなさそうに風に揺れている。
太陽は頭の後ろからさしていて、アスファルトには、電線の影が一直線に映っている。
それから、並んで歩いているわたしたちの短い影。
「言ってくれなきゃ、友達にケイの恥ずかしい過去を暴露しちゃうよ」
「なに、恥ずかしい過去って」
「……遠足でおもらししたとか」
「そんなん幼稚園のときだろ」
「長縄に入れなくて、泣いたこととか」
ケイが、は、と吐息で笑う。
その時ケイの横顔を見て、思ってしまった。
ここで、もしもケイが。
もしもケイが、わたしの名前を言ったらどうしよう。
その考えは、ほんの一瞬、頭のはしっこを、流れ星のようにかすめていっただけだったけど、
一回そう思ってしまったら、ダメだった。
まぶたのあたりがそわそわして、落ち着かない。
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