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「おひいさま。お待ちしておりました」
部屋のドアを開けたら、そう恭しく言って一礼をする白いもふもふがいた。安部鈴音は白昼夢も見ているのだろうかと、自らのほっぺたを抓ってみる。が、痛いだけだった。おっかしいなあ。期末テストのせいで寝不足だから、てっきり夢だと思ったのに。
「おひいさま、夢ではありません」
もふもふは鈴音の行動で何を考えているのか解ったのだろう。必死に前足を動かし、現実ですと訴えてくる。が、その姿がすでに非現実だ。
「ああ。ついにテストストレスで幻覚を見ているんだ。そうに違いない。うん」
鈴音は必死にもふもふを頭の隅へと追いやろうとする。しかし、入り口すぐにいるもふもふは消えてくれない。しかもそのもふもふ、よく見ると狐のようだった。
「狐かあ」
「はい。狐です。私、ユキと言います」
「へえ、女の子?」
「いえ、オスです」
「……」
どうしよう。矛盾なく会話できちゃってるんだけど。鈴音はよろっとドアに凭れてしまう。
「だ、大丈夫ですか、おひいさま」
「大丈夫じゃないって。早く消えて、幻覚よ。私はベッドで一眠りしたいの」
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