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「あわわっ、お疲れでございましたか。それは察せずにもうしわけございませぬ。ささっ、どうぞ御座所へ」
「……」
白い狐が必死にベッドの前に走って行くと叫んでいる。その姿はどう見ても幻覚ではなさそう。ようやく、鈴音はそう認めるしかないのだと気づいた。
「あなた、現実に存在してるの?」
「もちろんでございますよ。おひいさま。私はあなた様を迎えに来た御前狐でございますよ」
狐のユキはえっへんと胸を張った。それに、鈴音は頭を抱えてへたり込んでしまう。幻覚じゃないだと。一体どういうことだ。まったくもって訳分かんない。
「だ、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないわよ。結局あんたは何なの? あと、おひいさまって誰?」
「誰も何もおひいさまはただ一人、安倍鈴音様にございます」
「うっ」
フルネームで呼ばれ、もはや逃げ道なしみたいになってくる。めっちゃ困る。ええっと、ここは私の部屋。間違いなく自分の部屋だ。ベッドに勉強机に本棚、数々のぬいぐるみ、何一つ変化していない。奇妙なのはこの狐だけ。
「あの、おひいさまってどういう意味?」
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