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「いや、それとこれは違うような」
そんな理論で衣装を用意されてもと、鈴音は困惑しつつも、でも、綺麗な衣装は素直に嬉しかった。
「中華風なのは、ううん。どうなんだろう」
鈴音はこの衣装も嫌いじゃないけど、ここの雰囲気に合わないようなと首を傾げる。
「雰囲気なんて無視して大丈夫よ。お母さんとしてはドレスを着て欲しいわ」
「いや、それはどうなの?」
「でも、この袿も綺麗よねえ」
「おおい」
「御台所様、こちらはどうでしょう」
「いいわね。そうなると、これと組み合わせて」
「ちょっと」
こうして二時間は着せ替え人形と化す鈴音だった。
「疲れた」
「ご苦労」
ようやく解放されて清涼殿に戻ると、淡々と健星に迎えられた。ううむ、さっきまで華やかにちやほやされたものだから、この普通の対応にびっくりしてしまう。今も書類から顔を上げることなく、鈴音を見ようとすらしない。
「健星っていつもいつでも変わらないわね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
嫌味も通じなかった。まったくもうと溜め息が出てしまう。
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