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「幻覚ではございません。先ほどは違うとお認めくださったではありませんか」
ユキは器用に前足で目頭を押え、泣き真似をしてくる。そんな狐、現実の物と認めたくないんですけど。
「ったく、何なの? 私は忙しいの。明日もテストがあるの」
鈴音は追い払おうとユキを捕まえた。すると、もふもふの心地よい手触りがする。ついでに温い。
「い、生きてる」
「当然でございましょう。妖かしとはいえこの世に存在するもの。血が通っております」
ユキは撫でられて心地よさそうに目を細めた。その姿だけならば普通の動物なのになあと鈴音は思い、ようやく気分が落ち着いた。
「仕方ないわね。喋る狐がいることを現実として受け入れてあげる」
「ありがとうございます」
「で、何か用?」
いきなり姫とか呼ばれても困るんですけどと、鈴音はユキをベッドに下ろして訊く。するとユキはやっと訊いてくださいましたなとほっとしたようだ。
「はい。実はこの度、現世と妖怪の調停を務める冥界の王が引退なさることになりまして」
「ごめん。何一つ理解出来ないんだけど」
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