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「最初からローラーコースターとは、飛ばしていくね、セーラも」 「そうなのでしょうか。私はこのような娯楽施設は初めてですので、遊び方には明るくなくて。ローラーコースターについては、『怖いときは、正直な気持ちを叫ぶ』ということしか存じ上げておりませんの」 「なるほど」  カタカタとコースターが上っていく。いつ落ちるかわからない恐怖と先に何があるのか想像もつかないプレッシャー。まだ見ぬ新しい物事に出会うかもしれないというスリル。それは、上質でありながら過酷過ぎる王子妃教育にもどこか似ていて。 「殿下の大バカ野郎!」 「今さら婚約解消とかどういうことですの!」 「私の青春を返してくださいまし!」 「ひとが真面目に仕事をしていればいい気になって!」 「何がドキドキしないですの!」  右へ左へ、びゅんびゅん進んでいくローラーコースターに乗っている間中叫んでいたら、アトラクションの終わり頃にはすっかり爽快な気分になっておりました。乗る前はどうしてこんな恐ろしげなものに並んでまで乗りたいのか不思議でしたが、このすっきり感をみなさん求めていらっしゃったのですね。 「あら、殿下ったらお顔が真っ青ですわ。もしかして、三半規管があまりお強くないのかしら」 「いや、三半規管というか心が弱いらしい」 「殿下が弱音だなんて、意外ですわ」  思わずくすくすと笑えば、ひどく驚いたような顔で殿下がこちらを見つめてきました。あら、私だって笑いますのよ。王宮では微笑むだけで済ませるのが淑女の嗜みだと教えられましたから、こういった笑い方をすることはありませんでしたけれどね。 「私は楽しかったです。とても爽やかな気分でした」 「僕は隣で生きた心地がしなかったよ」 「この花園は、聖女さまの故郷でも一番古い遊園地を模しておりますので、ローラーコースターと言えども、急上昇や急降下はございませんの。かの地には、垂直上昇垂直落下するような乗り物ばかりが集められた遊び場もあるそうですよ」 「新手の拷問場所の間違いではないのか!」  額にてのひらを押し当てて、殿下がしゃがみこんでしましました。 「あら、殿下。胸がドキドキなさいましたか?」 「ドキドキというか、頭がズキズキする」 「ご老人や健康面に不安のある方は、ローラーコースターには乗ってはいけなかったのですけれど」 「そういう意味ではない」 「さようでございますか。では次に参りましょう」
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