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空がオレンジ色に染まった頃、僕はまだ教室にいた。固く閉ざされた窓と暗い教室がまるで僕の心境を語っているようだ。
校舎に響くクラブ活動の声を聴きながら僕は眠りについた・・・。
僕の朝は毎日早い。どの生徒よりも早くスタンバイし、教室で水槽の水を変える先生に挨拶をして授業が始まるのを待つ。
授業開始が始まるすこし前、続々と集まるクラスメイト。
「よぉ!昨日のテレビ見た?」
そう声をかけてきたのは弘樹君だった。
僕は見ていないと伝えようとしたその時、
「見た見た!すごい試合だったよな!」と直樹君が割り込んできた。
二人はサッカー部で人気者だ。この弘樹直樹のお調子者コンビは先日も夜中の学校へ忍びこんだりと、とにかく自由だ。しばらく3人で談笑したがサッカーの話で盛り上がり僕の入る隙が全くなかった。
チャイムが鳴り授業が始まった。
僕の前の席には学校一の呼び声高い野中さんだ。野中さんは恥ずかしがり屋なのか全く僕の目をみてくれない。何とか仲良くなれないかと僕は常に模索していた。
今日の授業は理科の実験で近くの席で4人グループを作ることになった。
「ナイス先生!」僕は心の中で叫ぶ。
当然一番後ろの席の野中さんは僕と他数名でグループを作ることになった。
野中さんは容姿だけでなく頭も良くテキパキと作業している。ひとつひとつの動きが美しく僕は見とれて動けなかった。他の人たちも各々自分の担当作業をこなしている。
授業も終盤となり、2人1組で実験結果を発表することとなった。僕は勇気を振り絞り野中さんに声をかけようとしたが、彼女はすぐ別の男性にとられてしまった。
僕のグループは2組とも実験は成功と発表していた。成功しなかったのは僕の恋路だけだった。
授業が終わり休憩時間。みんなワイワイと次の授業の支度をしている。僕も心の準備をする。
次の授業は生物についてだ。メンバーは変わるが僕の席は変わらない。
僕の前の席にはヤンキーの高橋さん。怖くて近づきたくもない。授業に集中しよう。
僕は生物の授業が好きでいつも理科室にいる。ここの水槽にはグッピーがいてキラキラと輝きながら僕の話を聞いてくれるからだ。
先生は僕の名前を呼ぶと、僕はみんなの前に連れて行かれて発表することとなった。
僕の発表はわかりやすいらしくみんな僕にくぎ付けだった。ちょっと誇らしい。
そんな一日が終わり、再び空がオレンジ色に染まる。戸締りされた窓と暗い理科室でクラブ活動の声を子守唄に今日も僕は眠る。
そう、僕は人体模型。
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