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ある村に一人の若者がやってきた。若者は仕事で琵琶を弾いていた。琵琶を練習するために静かな村を求めてここにやってきたのだ。若者の期待通り、村は静かだった。おかげで琵琶の練習に集中することができた。
ある日のこと、家で琵琶の練習をしていると、屋根を打つ雨の音が聞こえてきた。外を見てみると、雲一つない空が広がっていた。
若者は首を傾げた。雲がないのに雨が降るのはおかしい。若者は隣の家に住むおじいさんに聞くことにした。
「じいさん。なんで雲一つないのに雨が降っているんだ」
その問いかけに、おじいさんはすぐに答えてくれた。
「おまえさん。これは巨人が泣いてるんじゃよ」
「巨人?」
「そうじゃ。裏の山に住む巨人が泣くと、その涙がこの村に降り注ぐんじゃ」
そんなことがあるのかと若者は疑問に思った。ただ、雨音がうるさくて琵琶の練習に集中できないのは困る。若者は巨人と話すため、裏の山へと向かった。
「おい、巨人よ。聞こえるか」
若者は山の麓に来たところで、そう叫んだ。しかし、何も返事はない。
「おい、巨人。聞こえていたら返事しろ」
「なんだい?」
地面を震わすような、大きな声が聞こえてきた。姿は見えないが、きっと巨人の声だろうと若者は思った。
「お前の涙が家の屋根に降ってきて、うるさくてうるさくて琵琶の練習ができないんだ。泣くのをやめてくれ」
「そんなこと言ったって、悲しいんだよ」
「悲しいってのはいったいどういうことだい」
「実は……」
巨人はゆっくりと語り始めた。自分は人間と比べて、体が大きい。人間は巨人を恐れて、近づこうとしない。巨人は人間の友達がほしいのに、一向に仲良くできないのだ。
「おい、巨人よ」
若者は声を張り上げる。
「人間達に好かれるためには、お前が人間のために動かなければいけない」
巨人は黙ったままだった。
「お前が人間のために動けば、必ず人間はお前のことを好きになってくれる。お前の大きな体は、人間を助けるためにあるんだ」
しばらくの静寂の後、「分かった」と巨人が言った。
そこから巨人の涙はぴたりとやんだ。若者の耳には、巨人が橋を作る手伝いをしたり、嵐で壊れた家を修復しているという噂が入ってきていた。
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