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◆ 3 ◆
学校を出て駅前のドーナツショップに向かう道すがら、森には軽ーく説明をした。
「つまり、話をまとめると、親友が本当に彼氏のことを好きなのか確かめるべく尾行するってことで?」
横を歩く森に「そう」と返す。
「えー、そんなの別にほっときゃいいじゃないですか」
案外ずばずば喋るんだな。クラスではすごく大人しいのに。教室にいる時とキャラ違いすぎない?
それをそのまま言ったら、「クラスには喋る友達とかいないですし」とあっけらかんとした様子で返された。地雷踏んじゃった。
「でも、親友本人が『彼氏の顔見るとドキドキする~』とか言ってるなら確かめる必要ないのでは? 疑う余地なく、異性として好きなのでは?」
「そうとも限らないじゃん、恋に恋してるだけかもだし! 第一、彼氏にだまされてるんだったらどうすんの!」
噛み付くように言うと、「女子こええー」と敬語をほつれさせた。「うるさいよ陰キャ」と睨んでおく。
「陰キャって……。チクチク言葉ですよ」
「小学生か。……いや、まあ言い過ぎたかも。ごめん」
「あ、別に傷ついてないんで」
「腹立つ。マジ蹴るよ?」
そんな会話を交わしているうちにドーナツショップにたどりついた。
思いのほかお洒落な外装で、二人で「マジでここですか?」、「え、こわ。お洒落すぎてこわ」と、ビビりつつも恐る恐るドアを開けた。
軽やかにドアベルが鳴り、店員さんが「いらっしゃいませ」と微笑みかけてくる。
「本日、カップル割り引き実施中ですが……」
「カップルです」
「赤の他人でーす、ぐっ」
森のすねを蹴って「照れ屋な彼氏ですいません」と店員さんに笑いかける。森にジト目で睨まれたが、無視。私たちは席へと通された。
「何なんですか、カップルって。聞いてないんですけど。莉世さん僕みたいのがタイプなんですね。ははは、全然うれしくねー」
私がさっき蹴ったすねをさすりながら、森が憎まれ口をたたいてくる。
「うるさいな。タイプじゃないわ、あんたなんか。カップルのふりよ、ふり。安くなるんだからいいでしょ。今月、お小遣いもう無いの」
「高校生にもなって、バイトもしたことないんですか?」
「いちいちカンにさわるやつね。その前髪むしってやろうか」
私はカスタードのドーナツを、そして森はチョコのドーナツを注文した。
店内にはポツポツとしかお客さんがいない。
朱里とその彼氏はまだ来ていないようだ。
あとどのぐらいしたら来るかな……と、思ったその時。ドアベルが軽やかに鳴る音がした。
「カップル割り引きで!」
聞き慣れた声がして振り向く。
朱里だ。スーツ姿の若い男と一緒にいる。写真で見た男と同じ……! あの人が彼氏か! ていうか社会人とJKが堂々と「カップルです!」とか言うな! 偏見というものを知らないのか朱里は……!
「うわ、朱里さんじゃないですか。援助交際してますよ、あんな堂々と」
「若めのパパじゃなくて、あれが朱里の彼氏なんだよ。マジ死ねよお前」
森のすねを容赦なくローファーのつま先で蹴りながら、私は朱里の動向を窺う。たまたま入口からは見えない奥の席に通してもらっていてよかった。
朱里たちは窓際のテーブル席に着いた。
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