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「最近、学校はどう?」  松橋が、朱里に向かって柔らかい笑みで尋ねた。 「ま、まあまあかな……」  歯切れ悪く言った朱里の表情がわずかに曇る。 「どこか具合とか悪い? さっきも何か空元気な感じがしたけど」  すかさず松橋が心配そうに声をかけていた。  へえ、そういうの気づくタイプなんだ。  意外だったので片眉を上げる。  男って鈍いタイプも多いし、言われないと何も気づかない奴だっているのに。 「あ、ううん。ぜんぜん元気なんだけど……」 「どうかしたの?」 「……これ! どのタイミングで渡そうかなって緊張してて……」  朱里が鞄からドーナツを取り出した。チョコレートのドーナツだった。きれいにラッピングされていて一目で本命とわかるそれ。 「松橋さんがドーナツ好きって言ってたから、つくったの! 徹夜で! 今日、バレンタインだから!」  ハッとした。  朱里は今日、体育のときに倒れていた。徹夜でお菓子つくってたからだったんだ……。寝不足で倒れるくらい、その人のために頑張れるの……?  ていうか、朱里、私にはチョコくれなかったのに彼氏にはチョコあげるんだ……。私は朱里のこと親友だと思ってたけど、朱里からすればそうじゃなかったのかな。  ……何か気分が落ち込んできた。 「もらっていいの?」と松橋が言って、朱里は「うん!」と頷く。松橋は「ありがとう」と照れた様子で受け取った。 「……あのね、莉世に松橋さんとつきあってること言ったら心配されちゃって」  え、私の話してる? 「心配って?」 「なんか、どうやって出会ったのって()かれたから、ナンパされてついてったって言ったら、騙されてるんじゃないか、とか……」 「僕、人を騙せるほどウソ得意じゃないよ。ていうか、ナンパのつもりはなかったんだけど……。最初は本当に道に迷って困ってたんだけど、通りすがりの朱里ちゃんに声を掛けたら可愛くて、一目惚れしたからお茶に誘ったんだよ」 「あれ? そうだったっけ?」 「そうだよ」  松橋は笑った。そうなんだ……。 「あとね、莉世に本当にその人のこと好きなの?って訊かれて……。本当は今日、莉世にもチョコ用意してたんだけど、友達なのに応援してくれないのかなって思ったら何かムカついちゃって……。結局わたせなかったんだ……。心せまいよね、あたし……」  シュンと肩を落とす朱里。そんなことない。ていうか朱里、彼氏の分だけじゃなくて私の分もちゃんとチョコ用意してくれてたんだ……。それなのに私ってば……。いろいろ反省。 「そんなことないよ。明日、渡せば大丈夫。きっとその子だって、朱里ちゃんのこと心配してるだけなんだよ。僕も、そのお友達にも認めてもらえるように頑張るから」 「松橋さん……」 「これありがとう。大事に食べるね」  その言葉で、一瞬にして朱里の頬が赤く染まる。「うん!」と元気のいい返事をしていた。 「しっかりときめいてるみたいですね、朱里さん」  森が注文したドーナツをかじって、そう口にする。 「いや、いまのどこにときめく要素があったのかわからないんだけど……?」  でも、朱里は紛れもなく照れているし、うれしそうだ。あの様子を見る限り本当に好きなんだろう。  でも……。 「何で? 何であの人なの? 朱里には絶対もっといい人いるって……」  どうしても納得がいかない。
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