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「ここにチョコレート・リングがあります」  森は皿の上に乗った食べかけのドーナツを()して言った。  私は、店内のお洒落な音楽を聞き流しながら「うん、あるね」と言う。 「莉世さん、お店のレビューは見ましたか?」 「見てない」 「僕は見ました。そしたら、このドーナツはお客さんの間で意見が割れているみたいなんです。『甘くて美味しい』という意見と、『思ったより甘くなかった』という二つの意見に」  つまり、このチョコレート・リングは甘いか苦いか、どっちなんだってこと? 「正解はきっとないでしょう。答えは人それぞれ。甘いという人にとっては甘いのでしょうし、苦いという人にとっては苦い食べ物です。要するに、好みの問題なんです」 「曖昧だね」 「恋愛も似てますよ。松橋さんのような男性を見て『あの人は頼りなさそう』と思う人もいれば、『優しそうだし、一緒にいて落ち着く』と魅力を感じる人もいます」  確かに、私には朱里の彼氏はどこがいいのか全然わからない。イケメンでもないし、頼りなさそうだし。  でも、朱里は楽しそうに笑っている。朱里にとって良い彼氏なら、べつにいいのかもしれない。 「でも、せっかくなら心の底から応援してあげられる彼氏であってほしいよ。イケメンとかエリートとか」 「でも誰を好きになるかは朱里さんの自由ですし」  優雅にコーヒーを飲む森。言葉に詰まる。  そうだ。朱里の様子からして、本当に彼氏が好きなんだろうなってことはわかってる。なのに、自分が心から応援できないからって、もっとかっこいい人とつきあってほしいとか思うのは、わがままだ。 「そっかー。でも朱里が今後のろけ話とかしてきても上手く対応できるかなー、私。親友なんだし、できることなら応援したい」 「親友の彼氏だからって、嫌いになっちゃいけないという決まりはありません。親友の朱里さんのことは好き。でも、朱里さんの彼氏は気に食わない。それでもいいんじゃないでしょうか。まああんまり露骨すぎる態度をとると友情にヒビが入るでしょうが」 「うーん」 「でも、莉世さんがそうやって朱里さんのことで悩めるのは、それだけ大事な友達だからなんでしょうね。ちょっと羨ましいです」  森はまたコーヒーを飲んだ。  ……そういうふうに言ってもらえるの、素直にうれしい。
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