雨音は私の心

雨だれ

『練習サボり過ぎだ！　僕が死んだからって練習を疎かにするなんてッ』

「疎かになりますって！」

『無駄口叩くな。鍵盤を叩け！　文化祭まで時間がない！』

私は再びこうしてピアノを弾く事になった。

文化祭で弾く曲は──『雨だれ』

私は先生に「雨宮先輩が弾けって言って来たので、文化祭の舞台に出させて下さい」と、交渉しに行ったら何だか美談とか言われて、あっさり許可が降りたのだった。

そうしてまた始まった先輩の放課後幽霊レッスン。

それは生きている時と何ら変わりないものだった。幽霊だろうが何だろうが。
私は別にどうでもいい。
ここに先輩がいる。
それでいい。

このままこの時間がずっと続けばいいと思った。でも。

時折透けて見える先輩。
ピアノしか触れない先輩。
音楽室にしか現れない先輩。

それでも先輩はあの夏の日と変わらずに笑っていた。

私がこのまま文化祭に出なかったら、ずっと居てくれるんじゃないかと少し思ったが、それは弟子としてやっちゃいけないと思った。

先輩みたいに上手く弾けるかわからないが、私は猛特訓した。

多分、人生で一番熱中した。

私の部屋で埃を被っていたピアノセットを引きずり出して昼も夜も沢山練習した。

一音、一音、想いをこめて。

そしてあっという間に文化祭当日になった。