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プレリュード
私は別にピアノなんか好きじゃなかった。
ましてやクラッシクなどには興味がなかった。
バッハもショパンも皆同じ音色だった。
しかし世界は一瞬にして変わった。
この高校の入学して雨宮先輩が新一年生を迎える為に体育館で演奏したその姿に、私は一目惚れした。
初夏の5月。
その日はしとしと、と雨が降っていた。
早めの梅雨が来たと言わんばかりに体育館はじっとりとしていた。
知らない在校生の歓迎の言葉に。合唱に。
皆ダレたときに。
雨宮先輩は清涼な空気を纏い壇上に現れた。
そしてマイクを持ち。
「新入生の皆様こんにちは。僕の演奏でもう最後です。流行りのYOASOBIでも引いて適当に終わろうかと思っていましたが、今日は雨。なのでショパンの雨だれを弾きたいと思います。よければ聞いて下さい」
まるで私達に興味はないと高校生にしては大人びた表情を変える事もなく、雨宮先輩は優しくピアノを弾き出した。
キッチリと着た学ランと艶やかなグランドピアノを軽やかに弾くその姿。
王子様かと思った。
絶対に嫁に行こうと思った。
メロディーの良し悪しなんか私に判るはずもなかったが、体育館のダレた空気は一掃された。
体育館の外から聞こえる雨音。
そして雨宮先輩の奏でる音は自然の雨音の伴奏を伴い、それはとてもとても美しかった。
そうして私は雨の日に恋に落ちた。
なのに。
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