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高らかに、声が響きわたる。
それを聞き、強盗犯たちが明らかに顔を強張らせた。
ショップの入り口には、たくさんの警察の人たちがいて――みんな、きびしい目つきで覆面強盗犯たちをにらみつけている。
「なにいっ⁉ なぜ、もう警察が……! 我々はきちんとお前らが来る時間を計算してっ」
「なら、その計算は外れだったわけだ。観念するんだな!」
取り押さえろ! と刑事さんらしき人がさけぶと、一斉に後ろの警官隊が飛びかかっていく。
さすがの強盗犯たちも、自分たち倍以上はいて、しかも同じように銃を持っている屈強な警官たち相手にはどうすることもできない。あっという間に取り押さえられ、動けなくなった強盗たちは悔しそうにしていたが、抵抗はしなかった。
「すごい、こんなにすぐに……。」
呆然とつぶやきながら、うつむく。
……わたしは、結局、何もできなかった。
大切な親友のためなのに、助けてもらっただけだった。それどころか、知らない男の子に守ってもらって、しかも、そのせいで彼を危ない目に遭わせそうになって……。
「もう大丈夫だ。怖かったな」
あまりの情けなさに泣き出したわたしの頭を、近くの刑事さんがなでてくれる。
その手は大きくてほっとしたけれど、より自分がみじめに感じられて、わたしはしゃくりあげながら「ごめんなさい」と繰り返すことしかできなかった。
「……待ってください。まだ事件は終わってません。」
えっ?
となりから聞こえてきた声に、わたしは思わず顔を上げる。
横を見ると、男の子は凛とした顔をして、真っ直ぐ立っていた。
手錠をかけられた強盗犯たちが次々連行されていき、どことなくほっとした空気がただよう中、男の子のまとう空気だけがひどく、固い。
「スバル、お前……どういう意味だそれは?」
頭をなでてくれた刑事さんが、困惑したように眉を寄せる。
今の、『スバル』というのは、もしかして男の子の名前だろうか。
彼は刑事さんと知り合いだった、ってこと……?
「ここ数年連絡がなかったお前から、いきなり無言電話が届いたと思ったら、おかしな方法でとんでもない内容のメッセージ送ってきて……。まあそれのおかげで早くここに到着できたわけだが、まだ何かあるっていうのか?」
「はい。」
男の子――スバルくんが静かにうなずく。
ど、どういうこと?
もしかして、強盗犯たちが計算したよりも早く警察が来たのは、スバルくんが刑事さんに連絡したからなの?
でもいったい、どうやって、あの人たちに気付かれずに連絡なんて……。
「ああ、彼は田中さんに電話をかけて、モールス信号で現状を伝えたんだ。モールス信号なら、スマホを指先でコツコツ叩けば表すことができるし、口で話さなくてもいいからね。」
「な、なるほど!」
わたしが話についていけずにおろおろしていると、横から他の刑事さんが教えてくれた。
田中、というのは今スバルくんと話している刑事さんの名前だろう。
じゃあ、スバルくんはその方法で。やつらに気づかれずに通報したんだ。
すごい。モールス信号、なんて。
そんなこと、とっさにその場で思いついて、しかも実行するなんて、ふつうできないよ。
……でも、なんで事件は終わってない、なんて言うんだろう。
強盗犯四人はもう、捕まったよね?
「ショップ内に共犯者がいます。」
疑問だらけのわたしをよそに、スバルくんは田中刑事さんと、話を続けている。
「きょ、共犯者だって?」
「ええ。そもそもこの、広くてセキュリティも厳しそうなショッピングモールの、しかも高級ジュエリーショップに、誰の手引きもなく強盗になんて入れるわけがありません。」
た、たしかに……言われてみればそうかも。
ショッピングモールのあちこちに監視カメラがあることは、わたしでさえわかる。
それに、強盗犯たちはどこからともなく現れ、いきなりお店になだれ込んできた。……わたしたちはそれに直前まで気づかなかった。
異変に気づかなかったということは、強盗犯たちはかなりモールの風景に溶け込んでいたってこと。
しかも彼らは、モールの中でもセキュリティの厳しそうなジュエリーショップに、直前まで誰にも怪しまれずに押し入ることが出来ていた。
それも、お店の中に共犯者がいたからだとすれば……。
「……それで、事件が終わってないって言ったんですか?」
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