グリーン企業

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
     翌日も翌々日も松崎の頭には寝癖があり、機嫌が悪いのも相変わらずだった。  そんな先輩社員について回る間、なるべく目を合わせたくなかったので、ついつい俺の視線は、彼の寝癖に向けられる。  そのうちに、面白いことに気がついた。  アンテナみたいな寝癖は、よく見れば黒というより緑色で、しかもピンと直立しているだけでなく、小さな葉っぱみたいなものが左右に突き出していたのだ。 「まさか、頭から植物の芽が生えている……?」  口には出さないけれど、俺は心の中でそう呟くのだった。  さらに数日が経つと、松崎の頭に生えた緑は、親指くらいの大きさに成長。もはや芽という程度に(とど)まらず、その先端には、今にも開花しそうな蕾まで(たくわ)えていた。  その日の昼休み、彼は食堂で並んでいる際、軽く肩がぶつかった同僚と喧嘩になってしまう。 「おい、私は大人しく列に並んでいたのだぞ。そこに当たってきて一言の謝罪もないとは、一体どういうつもりだ?」  相手だって故意ではなく、偶然ぶつかったに過ぎないはず。しかもほんの些細な程度の衝突だった。大声で因縁をつけられて迷惑そうな表情を見せるが、自分に非があると受け入れたらしく、言われるがまま頭を下げていた。  それでも松崎の怒りは収まらず、まだ何か言いたそうな顔をしており……。  ちょうどその瞬間、ポンという音が聞こえてきた。  同時に俺が目にしたのは、彼の頭の上で蕾が開花する様子。紅潮する頬みたいなピンクの花びらだったが、よく観察する暇はなかった。まるで「役割は果たした」と言わんばかりに、みるみるうちにしおれて、植物全体が枯れてしまったからだ。 「どうした? 私の顔に何かついているのか?」  目を丸くする俺に対して、松崎が声をかけてくる。先ほどまでの怒気が嘘のように穏やかな声であり、表情もすっきりとしていた。    
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!