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翌日も翌々日も松崎の頭には寝癖があり、機嫌が悪いのも相変わらずだった。
そんな先輩社員について回る間、なるべく目を合わせたくなかったので、ついつい俺の視線は、彼の寝癖に向けられる。
そのうちに、面白いことに気がついた。
アンテナみたいな寝癖は、よく見れば黒というより緑色で、しかもピンと直立しているだけでなく、小さな葉っぱみたいなものが左右に突き出していたのだ。
「まさか、頭から植物の芽が生えている……?」
口には出さないけれど、俺は心の中でそう呟くのだった。
さらに数日が経つと、松崎の頭に生えた緑は、親指くらいの大きさに成長。もはや芽という程度に留まらず、その先端には、今にも開花しそうな蕾まで蓄えていた。
その日の昼休み、彼は食堂で並んでいる際、軽く肩がぶつかった同僚と喧嘩になってしまう。
「おい、私は大人しく列に並んでいたのだぞ。そこに当たってきて一言の謝罪もないとは、一体どういうつもりだ?」
相手だって故意ではなく、偶然ぶつかったに過ぎないはず。しかもほんの些細な程度の衝突だった。大声で因縁をつけられて迷惑そうな表情を見せるが、自分に非があると受け入れたらしく、言われるがまま頭を下げていた。
それでも松崎の怒りは収まらず、まだ何か言いたそうな顔をしており……。
ちょうどその瞬間、ポンという音が聞こえてきた。
同時に俺が目にしたのは、彼の頭の上で蕾が開花する様子。紅潮する頬みたいなピンクの花びらだったが、よく観察する暇はなかった。まるで「役割は果たした」と言わんばかりに、みるみるうちにしおれて、植物全体が枯れてしまったからだ。
「どうした? 私の顔に何かついているのか?」
目を丸くする俺に対して、松崎が声をかけてくる。先ほどまでの怒気が嘘のように穏やかな声であり、表情もすっきりとしていた。
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