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翌日、頭の植物が消えた松崎は、珍しくニコニコしていた。俺が多少ミスをしても、
「新人のうちは仕方がない。同じ失敗を繰り返さないよう、今後の糧にすることだな」
と優しく諭すだけであり、昨日までとのギャップを思えば、気持ち悪いくらいだ。
この彼の好機嫌は数日間、また頭に芽を生やすまで続いた。
彼の場合は、髪が薄いために目立っただけかもしれない。
注意して観察すると、芽の生えた者たちが、社内の至るところで働いていたのだ。
とても奇異な現象のはずなのに、そうした人々を前にしても「頭から何か生えている!」と声を上げる者は皆無だった。もはや慣れてしまって気にならないというより、どうやらあれは、俺の目にしか映っていないらしい。
ならば、俺は特別な人間なのか。
いや、そもそも頭に緑を生やす人間たちと、そんな人間が集う会社の方が特別ではないか。
そんな思いから、俺はこの会社をグリーン企業と呼んでいる。
最初の松崎の事例でもわかるように、頭の芽生えは、イライラの兆しなのだろう。だから俺は、その芽が育ってきている人には、なるべく近寄らないようにしている。
おかげで無用なトラブルを避ける形になり、いつのまにか社内では「他人の顔色を窺うのが上手い男」と噂されるようになった。
俺が実際に窺っているのは顔色ではなく、頭に生えた芽なのだが。
(「グリーン企業」完)
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