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イモリを買いに
息子にイモリを一匹頼まれた誠一は、電車を乗り継ぎ、都心のデパートを目指す。
(アカハライモリのオスか。いくらぐらいなんだろう。五百円くらいかな。ああいうのは、当然養殖なんだろうな)
電車は揺れる。誠一は考えるともなしに考える。
(あいつ、どうしてオスがいいんだろう。ペットとはいえ、女の子の方がかわいいのに。愛着がわくのにな。おれだったらメスだな。メス好き、女好きーー)
電車は都心の駅に到着した。
(メスを飼って、オスを飼って、卵を産ませるというのもひとつの手だな。たくさん増えるぞ。オスがいいのか。メスにしといた方がいいと思うんだけど)
地下からデパートに入る。エレベーターに乗る。売り場は八階屋上のペットショップだ。
(オスか。メスの方がいいのに。オス。メス。オス。メス。そう、買うのはかわいらしいメス)
エレベーターは八階に着いた。降りる誠一。今から購入するイモリのことで頭の中はいっぱいだ。
(メスの方が俺はいいと思う。断然。確か、頼まれたのもメスだったよな。あれ?オスだっけ?あれ?あれ?そう、確か、頼まれたのはオスだ。でも、メスという印象もある。あれ?あれ?どっちだっけ)
息子に携帯で訊いてみようにも、小学校の時間で連絡は取れない。
誠一は焦った。オス、メス、どちらのイモリを買えばいいのか混乱してわからなくなったのだ。
(ええーっと、オスだっけか。メスだっけか。おれならメス。あいつはーーメスと言っていた気がする。でも、オスという気も強くする。オス?メス?まずい。間違えて買って帰ったら怒られるぞ)
歩を進める。ペットショップに足を踏み入れる。
(オスだよ、オス。確かそうだ。でもメスという気もーー。まずい。まずい。どっちだったか、どっちだったかーー)
誠一は焦る。近づく店員。
(まずいな。本当にわからなくなった。いかん。いかん!)
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で語りかけてきた。
(言わなきゃ。何か言わなきゃ。変に思われる。オスか、メスか、はっきり言わなきゃ!)
店員はにこやかに続けた。
「本日はどのような」
誠一はイモリの水槽を指さした。そして、苦しまぎれに言う。
「お、おかまのイモリ一匹ください」
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