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「……おかわり、取ってくる」
「え、あ、よそるのに」
「いいよ」
まだ二口分米の残る茶碗を手に持って立ち上がり、キッチンの棚にある炊飯器の前に進み出る。
当たり前のように隣にいて、当たり前のように飯を食って、それが何年続いた?
ただの友達だと思ってた?感じていたのは三田村からの好意。
でもそれだけじゃない。
随分と出てくるのが遅かったみたいだけど、芽吹いたのは新しい感情。
まだ名前は付けたくないけれど。
「香川」
心配そうな声が聞こえる。
戻らないと不審に思った三田村が来てしまう、数歩程度しか離れてないのだから奴の長い足なら直ぐだ。
「あー、うん」
よく分からない返事をして、慌てて炊飯器から白米をよそる。
居心地がいいと感じていたのは、相手が三田村だからだ。三田村から好意を感じると思っているのは、そうだといいと……思っていたから?
正解は分からないけれど。
「香川?」
戻ってきたオレを何か言いたそうに見つめてきたが、結局三田村は何も言わなかった。
夕飯が終わって食後のお茶を飲むのは日課のようなもの。その頃にはオレの心も大分落ち着いていた。
「明日はどうしようかな、たまにはパスタにしてみようか」
「あぁ、パスタいいな、最近食べてないや」
「そっか、じゃあパスタにするな」
何のパスタがいいかな~と言いながら三田村はテーブルの上に置いたスマホでレシピ検索を始めた。
週に2回が3回になって弁当も作ってくれ、休日もたまにだけど一緒に夕飯を食べるようになったのはいつの頃からだった?
当たり前のように明日の話をして、これがいつまでも続くかのように錯覚してる。
居心地が良すぎて忘れていた。
オレ達は友達だから、この関係は終わらないにしても一緒に食べる習慣はこの先突然終わるかも知れないのに。
そんな事考えもしなかった。
「三田村」
「ん?」
呼び掛ければ直ぐに返事が返ってくる。
端正な顔立ちは学生の頃から変わらないが、社会人になり大人の色気が出てきたような気がする。オレなんてまだたまに大学生に間違えられるというのに。
何も変わらないようで、確実に変わってきているのだ。だからこの気持ちを摘み取ってしまうか、育てていくのかは自分次第。
種を植えたのが三田村でも、それをあいつだけに任せて成長させようとは思わない。
「……何でもない……」
「……そう?」
可笑しそうに笑って、また目を細めた。猫みたいに。
その顔が堪らなく好きだったのだと、初めて気付いた。
完
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